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クルジア王国の女王エイシアが時空旅行からレスタール城の自分の部屋兼執務室に帰ってきたある日。

 

「・・・なにこれ。」

 

部屋の片隅に見慣れない趣味の悪い(とエイシアが思った)大きな壺が一つ。

ちょうどその時エイシアのパートナーであるレムが部屋に来た。エイシアがレムを呼んで壺を指差して一言。

 

「ねえ、レムさん、これ何?」

 

レムは少し苦笑をして

 

「ああ、これは義父(おとう)さんがエイシアさんが気にいるだろうから買ってくれと言われて・・」

 

「こんな趣味の悪い壺をわたしが気に入るわけ無いでしょう?」

 

「そうは思ったんだが、義父さんに『レムく~ん、頼むよ~』と泣きつかれてしまって・・」

 

「そんなの嘘泣きに決まってるじゃない。レムさんもそんな猿芝居に付き合う必要はないんだからね。」

 

「そうはいっても一応義理の父親だしなあ・・。」

 

「いいのよそんなの。・・それにしてもあのクソジジイ、わたしのいない時を見計らったように来てレムさんの立場上逆らいにくいのをいいことにまったくしょうがないわね。」

 

エイシアの怒気に多少たじろぎながらもレムが一言。

 

「返そうにももうだいぶ前にレスタールを発っているようだし・・どうする・?」

 

「どうするもなにも邪魔以外何者でもないんだから、レムさんが売るなり処分するなり何とかしてよ。・・まさか国の公金使ってないでしょうね。」

 

「流石にそんなことするわけはないだろう。僕の手元にあった小遣いと、偶々居合わせてたエストリアから個人的に少し借りた。」

 

エストリアとは丞相府の長、つまり国の丞相である。エイシアは少し呆れ顔。

 

「エストリアにはわたしから返しておくから、その悪趣味な壺をとっととなんとかしてきてちょうだい。」

 

レムはバツが悪そうに壺を持って部屋から出て行った。エイシアは丞相府の執務室へ。

丞相府の執務室に座る黒髪を古代中国風に後ろで束ねた男性の姿。

 

「これは陛下。呼びつけていただければこちらから参りましたのに。」

 

「ねえエストリア、その陛下っていうのいい加減止めてくれない?」

 

ちなみにこの国でエイシアを陛下と呼ぶのはこのエストリアと呼ばれた男だけである。

 

「ていうか、いいのよ。今回は個人的なことだから。」

 

「・・ああ、大公の件ですか。」

 

大公とはエイシアの父親、この国の前の国王の尊称である。ちなみにその尊称を使うのもこの男だけである。

 

「あんなクソジジイにそんな仰々しい尊称使わなくてもいいわよ。」

 

「わたしの立場上そういうわけにはいきません。・・お金のことでしたらお構い無く。」

 

「そう言う訳にはいかないの。ちゃんと返すから。」

 

そう言ってレムから聞き出した金額をエストリアの机に。

 

「お気持ちはありがたいですが、誰もいないとは言えここで金銭のやり取りをすると賄賂のたぐいかと要らぬ疑いの元になりますので。」

 

エイシアははっとなってお金を引っ込めた。

 

「・・そうね。悪かったわね。でも何らかの機会に必ず返すから。」

 

そう言ってエイシアが踵を返そうとするとエストリアが声をかけた。

 

「お見えになったついでといってはなんですが、陛下に幾つかご報告とご決裁を。」

 

その後数時間エイシアはエストリアと幾つかの政務に関する打ち合わせを行うことになる。